私は時々、眠りながら幽体離脱をして違う世界に行くことがあります。
それは天界だけでなく、違う時代や空間、次元に飛ぶことがあるようです。
10代の頃には、
私が生まれるずっと前に焼失した出雲の田舎の本家の屋敷を歩く夢を、たびたび見ていました。
毎夜のように続くその夢に悩むこともありましたが、
今になって思えば、霊能力が上がるきっかけのひとつだったように思います。
本家の家具の位置や、床の間、飾られた日本刀、二階へと続く階段、人の気配、
それらを家族に報告すると、
とても驚かれました。
そして、
「行っても良いけど、ちゃんと帰って来てね?」
と母に言われました。
それくらいはっきりと、
焼失した本家を訪ねていたようです。
時代なのか、次元なのかを越えて……
そして、久しぶりに現代ではなさそうな夢を見ました。
昨年の年末ごろのことです。
幽体離脱をしているときはきまって、
眠りに入り、目を開けると違う世界に立っています。
その日は、砂ぼこりが舞う道の真ん中に立っていました。
木造の朽ちた家屋が並ぶ和風の町が広がっています。
江戸時代なのか、もう少し前なのか……
そんな感じの街並みです。
まずお手洗いを使おうと、
私は木の扉を開けました。
すると、中にはなぜか我が家のトイレがあったのです。
もちろんウォシュレットですし、
手前には、シャンプードレッサー付きの洗面台があります。
「え?」
と思わず声を出して驚きましたが、
古さや汚さを覚悟していた私は、使い慣れたトイレにホッとしました。
しかし突然、
知らないおじいさんがトイレの中に入ってきたのです。
「え? ちょっとちょっと! 入ってます!」
と伝えましたが、おじいさんは私を見ることもなく、
前を通り、壁に頭を下げて手を合わせました。
(え?)
不思議に思いながら動作を眺めていると、
まるで神仏にお参りをしているような様子です。
(あ、あそこには……)
夢の中では壁には何もなかったのですが、
実際の我が家のお手洗いには、
漢方薬局の薬剤師さんから頂いたポスターが貼ってあります。
それには、中国の吉祥図や吉祥の言葉が描かれているのです。
おじいさんは、それに宿った神様に手を合わせているのだと感じました。
(リアル『トイレの神様』?)
なんてことを思いながら、もう一度、おじいさんに声をかけてみました。
やはり、おじいさんは反応がありません。
(あ、次元が違うんだ。だから、私が見えないんだ)
なんとなくそう感じました。
おじいさんは念を込めるように壁に一礼してから、トイレを出て行きました。
なんとも不思議な気持ちで、私もトイレから出てドアを閉めると、
やはり外は昔の街並みです。
強い風が吹き、黄色い砂を巻き上げます。
目の前が砂嵐のようになり、とっさに目をつむりました。
そして風が止み、ゆっくりと目を開けると、
砂ぼこりの中に女の子が立っていました。
現代の女子高生のような外見です。
ミニスカートに、可愛らしいトップス。
髪もふんわりと巻かれています。
普通の女子高生と違うところは、
頭に小さなツノが二本はえていたことです。
(あ、この子、人じゃない)
そう思っていると、女の子が声をかけてきました。
「ねぇ、あなた風水師でしょう? よくあなたの名前を聞くわ」
「はい、そうですけど……」
驚いた私がそう答えると、彼女は話を続けました。
「頼みたいことがあるのよ」
そして、彼女は依頼内容を話しました。
その依頼内容は他人に影響を与えるため、
「引き受けることはできない」とお断りしました。
すると、女の子の顔はキツイ形相に変わります。
ふと、映画『陰陽師』の鬼になった女性を思い出しました。
「なんでよ⁈ 人間の女だって、そういうこと望むでしょう?」
そう、彼女は叫びました。
「いえ、今のところ、そういったご依頼はございません」
私はできるだけ冷静にそう答えました。
そして、私の答えを聞いた彼女は「ふん」と鼻を鳴らして、
砂ぼこりと共に消えていきました。
そこで夢から覚めました。
(今日は強烈な夢だった……)
そう思いながら、体をベッドから起こします。
(私の名前をよく聞くって言ってたな)
ふと、女の子の言った言葉が気になりました。
CLAMP作品の『×××HoLic ~ホリック~』の6巻の中で、
主人公の四月一日(ワタヌキ)が、猫の灯(あかり)に、
「おまえさん、コッチの世界じゃ有名だよ」と言われていたことを思い出しました。
風水師は、天地人を尊び、
天と人、そして地との架け橋をする役割があります。
一歩間違えれば、恐ろしい体験ですが、
目に見えない世界から『風水師』だと認められたのかと、
少し、いえ、だいぶ嬉しい気持ちで目覚めたのでした。